「時間がない」
「忙しい、忙しい」
「あー、時間を無駄にした」
というようなセリフが口ぐせになっていませんか。
たぶん、現代を生きる大人(時には子どもも)は、このようなセリフを頻繁に口にするでしょうし、そのことに疑問ももたないでしょう。
私自身も、もうずっとそんなふうに生きてきました。
しかし、最近とても心が疲れているなぁと感じており、無気力症候群とも言えるような症状に悩まされています。
そこで、小学生の時に何度も読んだこの本のことを思い出し、また手にとってみました。
だいたい10歳前後の子どもを対象とした児童書です。
その結果、小学生の時と同じとまでとはいかないまでも、なかなかの感動が得られたので、レビューを残しておきたいと思います。
「モモ」はどんな本?
実は映画化もされたくらい有名な作品ではあるのですが、日本ではそこまで知られていないかもしれません。
しかし作者のミヒャエル・エンデはもう一つ大変有名な作品を書いており、それは
「果てしない物語」
というタイトルです。
これも映画化されており、日本での映画のタイトルは
ネバーエンディングストーリー
です。
「モモ」や「ミヒャエル・エンデ」は知らなくても、この映画のことを知っている人は多いでしょう。日本でも大ヒットしましたから・・・。
ネバーエンディングストーリーの主人公は10歳のいじめられっ子の男の子。
モモの主人公は、12歳くらいの孤児の女の子です(孤児なので、正確な年齢はわからない)。
1973年に出版された本なので、今から約50年弱くらい前の、古い本です。
もちろん設定や街の様子などには古さを感じますが、本の内容に関しては、まったく古さは感じません!
むしろ、作者がいうように、現代や、さらに未来の話としてもじゅうぶんに通じる内容でしょう。
私は小学生のころに読み、何十年かを経て、大人になってから初めて読みましたが、漢字とひらがなのバランスを考えても、大人でも十分に読みやすいですし、楽しめるストーリーです。
あらすじ
舞台はとある大都会。昔の円形劇場の跡地にどこからともなく住み着いた「モモ」という名前の女の子がいました。
モモは、人の話を聞くのがとても得意な女の子です。
といっても、あいづちがうまいとかそういうわけではなく、話している相手をただ見つめて、じっくりと聞くので、話しているほうは自然と饒舌になってきて、話を聞いてもらっているだけで、勝手に問題が解決してしまうのです。
そんなモモは、しだいに街の人気者となり、たくさんの子どもと大人の友だちに囲まれるようになります。
みんなは円形劇場にやってきては、おしゃべりをしたり遊んだり、歌ったりして楽しく遊んでいました。
しかし、しだいに「灰色の男」と呼ばれる不気味な男たちが街に現れるようになります。
この男たちは実は「時間泥棒」で、人々の時間を盗み、その時間を使って生きている男たちなのです。
時間が盗まれたおかげで、人々はどんどんせかせかした生活を送るようになり、顔からは生気が消え、仕事の誇りを失い、ただ「お金」や「成功」だけを求めるようになります。
モモの友だちにもその影響はやってきます。
モモはマイスター・ホラという時間をつかさどる賢者とそのペットであるカメのカシオペイアの助けを借りて、灰色の男たちと対峙し、この問題を解決しようとします。
読んだ後の感想
小学生で読んだ時は、この物語のメインテーマである「時間」の概念には正直ピンとこなくて、ただ全体に漂う不思議な世界観(エンデ自身の手による挿し絵もこの世界観を作っていました)とストーリーを楽しんでいました。
しかし大人になってから読んだ今では、作者が伝えたかった「思想」のほうをしっかりと受け取ることができました。
作者はおそらく、「時間を節約しようとしてせかせかとするのは悪い、社会全体のためにならない」というような考えだと思いますが、私としては、時間を節約したり成功を目指して生産的に生きる、というのも1つのチョイスだと思います。
その人の人生ですから。
ただ、そのように生きることの代償も大きいな、と思うのです。
時間を節約した後に、何が残るのか?
結局、「まだまだ時間が足りない」という結果になるか、もしくは、私が今感じているような無力感、虚無感に襲われるということになるのでしょう。
私は起業してから、日夜を惜しんで働いてきて、まっすぐ前しか向いていませんでした。「時間貧乏」というのをむしろ誇らしげに言っていました。
ただ、そのように生きることのリスクがあるということを知りませんでした。
人生では、一見無駄と思えるような時間の使い方がたくさんあります。
そのような無駄な時間を楽しむことが一番幸せ、そして贅沢なのかもしれないなぁと思ったりもします。
何十年も自分に課してきた生き方がすぐに変えられるわけではありませんが、少なくとも、すぐに「時間のムダだ」というセリフは口にしないようにしようと考えています。
どんな人にお勧めか
この本はこんな人にお勧めです。
- 疲れている大人
- 「時は金なり」という言葉に疑問を抱きもしない人
- 「生産性のある時間の使い方」に違和感を感じる人
Wikipediaでは「思想が勝ちすぎてストーリーとして面白くない」という意見もあるようなのですが、確かにこの物語は、作者の強い思想が感じられるものではあります。
だから、この物語は子ども向けではありますが、むしろ大人のほうが読んで強い感銘を受けるのでは、と思います。
でも、私が小学生の時に読んだ時のことをはっきりと覚えていますが、時間泥棒との戦いの場面はすごくドキドキしたし、自分にも「(カメの)カシオペイアみたいなペットが居ればなぁ」と妄想したり、ものすごく楽しんで読んだ覚えがあります。
なので、小学生の本好きの子にも自信を持ってお勧めできます。
この記事を読んでいるのは、たぶん、ちょっとストレスの自覚がある大人かな?と思いますが、もちろんあなたにも自信を持ってお勧めできますよ!「児童書~?」と思うかもしれませんが、とても面白いので、だまされたと思ってトライしてみてください。